非連結【文字集積】空間集




立ち読み



 それは今や(ほとんど奇妙とも思われるほど)ありとあらゆる場所から発掘されていた。
 というのも、ちょっと道端をほじくったり半透明な岩を削ったりすればたちまちすっかり干からび切った古生物がごろごろ出てくるというのはまあいいとして、飲食店の壁がぽろりとこぼれ落ちたかと思うとやはりそこには何匹かの古生物が(もちろんどれもコチコチに固まったまま)顔をのぞかせていたり、はては明らかに新築であると思われる家の天井から突然大量の古生物が降って≠ュるといったことになると、果たしてその古生物≠ニいうのが本当は一体どれくらい古い≠フかということについて我々はかなりの疑念を持っていかざるをえないのだった(もっともそれらの古生物たちというのは例外なく一様にひからび切って≠「るのであり、しかも過去におけるどのような記録を見てもいまだ干からびていない(・・・・・・・・)古生物が発掘されたという事はないようなので、少なくともそれらが我々全体より古い≠ニいうことはまず間違いないだろうということに[一応]なってはいるのだが)。
 ただ実を言うとここで問題なのは、そうした古生物が本当はどれくらい古い≠フかといったことや、また古生物たちは一体どのようにして飲食店の壁の中へ入り込んだのかといったことでさえなく(実際、古生物が最終的にどこでのたれ死のう(・・・・・・)が結局のところそれは我々自身とは若干別な話であるにすぎないからだ)つい最近出てきた話によると古生物はある時点において我々自体(もしくは我々自体へと繋がっていくべきその前段階)を既にすっかり食い尽くしてしまっていたのであり、そういう事からすると我々が現在なおここでこうしているということそのものが根本的に不自然極まる奇妙な事態なのであるという事らしいのだった(つまり本来なら飲食店の中にいるのは我々ではなく古生物であるべきなのであり、壁の中≠ゥらはむしろ古生物が食い残した我々の残骸[のひからびた(・・・・・)もの]が顔を出し≠トいかなければならないのだということである)。
 もしこの話が本当であるとすると我々というのは我々の考えているような我々≠ネのではなく実は古生物によって濾過≠ウれたものとしての我々≠ナあるか、もしくは何らかの形で古生物を迂回≠オたものとしてのそれ(・・)であるかといったことになってくるだろうが、そのことが具体的に何を意味するのかという事になるともはや私にもよくわからないし、またその話℃ゥ体もそうした点に関しては不思議なまでに沈黙を守り続けているのだった。
 一方そんなあるとき私は偶然、どういうわけか実験的に古生物を飼育してみているのだという人物と出会い、誘われるままついなんとなくその人の家へと行ってみてしまうことになる。
 しかしそこへ着いてからすぐにわかったのは、その家≠フ中には既に実験的というにはあまりにも大量の古生物が至るところでうごめいていたということであり、しかもよく見てみるとその人自体の表面からも次々と新たな(・・・)古生物が這い出してきては様々な形で既存の′テ生物たちと融合していくといったことがまるで嫌がらせのように延々と続けられていくのだった。
「古生物≠甘く見てはいけません」
と(ほとんど信じられないくらいの時間が経過した後)その人が口を開く(もっともその人の全身からは依然として古生物が絶え間なく這い出しつづけていたので実際にその人の口≠ェどこにあるのかを見極めるのはかなり困難であったのだが)。

(『古生物』より)



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