中・短規模《構造》集




それは特に何かを描こうとしているというわけでもないようだった。もっとも、ナミムシを集中的に調査しているという若干の者たちによると、それらの一つ一つは明らかにある種の素材≠ネのであり、仮にナミムシ自体にはそんな意図など全然なかったとしても素材%ッ士がゆらゆらとうごめいていくうちにやがて否応なくある形を成していくことになってしまうのだということであるが、少なくとも私たちのような素人からするとその否応のない形(・・・・・・)というのが一体どのようなものであるのかそれほど(というよりはさっぱり(・・・・))判然とはしないのだった(もちろん基本的には宙を蠢く波線であるナミムシがある程度たくさん集まればたまたま(・・・・)何かの形に見えてしまうということもないではないが[たとえばある時には、それはひどく歪んだ人の顔のように見えたり、また別な時にはなにかの記号もしくはある文字に見えたりすることさえある]それはあくまでナミムシの配置が偶然そうなってしまったにすぎず、私にはどうしてもそれらが否応のない形(・・・・・・)であるとは思えないのだった[実際、仮に私の立っている所からはそれが電信柱に見えたとしても別な所に立っている人にとってその形は机以外ではありえないといったことも考えられるので、こうした場合ナミムシの否応のない形(・・・・・・)なるものが果たして電信柱なのかそれとも机なのかといった問題も発生してきてしまうのである])。

しかしそれはそれとして、とにかく私たちの周囲はナミムシで満ちている。その中にはまるで海中を泳ぎ回るプランクトンのようにせわしなく宙を移動している小さな波線≠烽れば、あたかもヘビがうねっているかのようにゆっくりと目の前を横切っていく波線、そしてほとんどどこまで続いているのかわからないほど長い(・・)波線が激しくうねっていたりもするのであるが、よく見てみるとナミムシたちは単に私たちの周囲をうごめいているだけではなく、そのいくつかは私たちを貫いてさえいるのであって(例えば長い<iミムシは私たちや周りの事物をまるで数珠のように次々とつないで(・・・・)いくし、また比較的小さな波線≠熾p繁に私たちを通り抜け(・・・・)ながらうねったり滑ったりしていくのだ)それによる痛みのようなものは一切感じないものの、やはり全体として何かしらの鬱陶しさというものは拭い切れないのだった(そんなわけだから私を含め大抵の者たちは道を歩くときも止まっている時も次々と迫ってくるナミムシを避けようとして絶えず微妙に身をくねらせているのであるが、それでもやはり本当に回避できるナミムシの量はほんのごく一部であるに過ぎないのだった)。そして私がナミムシの捕獲≠ニいうことを考え始めたのもまさにそうした理由からに他ならなかったのであり(つまり捕獲≠ノよってナミムシの絶対量を減らさない限りいくらよけたとしても切り(・・)がないということだ)さっそく大量のチラシを製作した私は特にナミムシが多そうな場所へと繰り出し、そこにおいてやはり身をくねらせている人々に私が考案した捕獲法≠ノついて(チラシを使いながら)やや詳しく説明していくことにしたのだった(その場所≠ニいうのは見たところ一種の公園のようでもあったが、ちょうどその時[というよりそれがまさに私の望んでいることであったのだが]そのあたり一面はまるで子供が落書きでもしたかのように至るところ波線だらけになっていたので、もしかしたらその波線によって私にはそこが公園に見えただけなのかもしれない)。私はそうしたたくさんのナミムシを掻き分けながら(とはいえ私もまた身をくねらせてナミムシを避けつつそれに貫かれていたにすぎないのであるが)その公園≠フ中へと入っていき、やがてある一つのベンチに座っている(ように見える)比較的身なりの良い人物の前に到達する。見るとその人物は何やら新聞のようでもある紙の束を握り締めた右手を高々と掲げ、どういうつもりかそれをゆっくりと頭の上で回しているのであったが、そんなことより私が気になったのは、真っ直ぐ私の方に向けられたその人の目の中からはまるで水道の蛇口をひねったかのように次々と大小のナミムシが飛び出してきていて、こちらからはほとんどその人に目があるのかどうかもわからないような状態となっていたので、たとえチラシを渡したとしても果たしてその人がそれを読むことができるのだろうかという事だったのだ(新聞を所在なげに振り回しているのも、ひょっとするとそれによってもはや新聞が読めなくなってしまったのだということを表現しようとしているのかもしれない)。しかしせっかくここまでやってきた以上私も後に引くわけにもいかないので、私は一応その人物にチラシを渡し(驚いたことにその人は空いている左手であっさりとそれを受け取ったが[ただその間も右手ではやはり新聞をぐるぐると回し続けていた]私はなおその人の目から流れ出ているナミムシが気がかりだった)念のため次のように口を添えていく。


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