愛国婦人会の設立と確立

《シリーズ@ 愛国婦人会》




データ

作者名 作品の分類 ページ数
守田佳子 歴史学 280

ISBN 書籍サイズ 定価(税込・円)
978-4-903447-21-6 A5 2,750




概要
愛国婦人会は、近代における日本で最初の全国的規模の婦人団体であった。日本国内にとどまらず、朝鮮・台湾・樺太・満州・南洋諸島など日本の植民地のみならず、サンフランシスコ・ハワイ・バンクーバーなどにも地方本部や支部を広げていた。また愛国婦人会は、20世紀の初年1901(明治34)年に創設され40年以上にわたって存在した婦人団体であり、最盛期には700万人以上の会員を持つ、世界的に見ても大きな婦人団体であった。これほどの規模と歴史を持った婦人団体の記憶は、なぜ忘却または混乱しているのだろうか。

これまでの女性史の研究は、2つの観点から進められたという。1つは婦人解放の運動家や団体に関するもの、もう1つは労働問題の観点から、底辺の労働婦人や娼婦に関するものである。特に愛国婦人会のように、皇族や華族を上層部に据え、いわゆる名望家婦人たちを集め、国家にお墨付きを受けたといわれる団体の場合、「真の婦人解放」の芽などあるはずがないと、研究の対象からはずされてきてしまったように思える。

愛国婦人会は日本初の全国的婦人軍事援護団体であるとされるが、興味深いことに、愛国婦人会が会の目的を「軍事援護」とするのは、1938(昭和13)年5月6日の愛国婦人会定款の改正後、すなわち解散する前の4年間に過ぎない。愛国婦人会の規則は、発会当時1901(明治34)年2月24日に愛国婦人会規則として定められた。1904(明治37)年10月に愛国婦人会定款が定められ、その後7回改正されているが、目的は大きくは3回変わっている。まず、1901(明治34)年の規則では、「本会は戦死及び準戦死者の遺族を救護する事、及び重大なる負傷者にして、廃人に属する者を救護するを以て目的とす」となっている。1904(明治37)年の定款では、「本会は戦死並びに準戦死者の遺族及び廃兵を救護するを目的とす」となる。愛国婦人会の目的が初めて大きく変えられたのは、1917(大正6)年6月5日の定款の改正で、「本会は戦死並びに準戦死者の遺族及び廃兵を救護するを目的とす。前項主たる目的の外地方の状況に依り必要なる他の救済事業を為す事を得」となる。これによって愛国婦人会の活動目的に、一般の救済が加わる。

1931(昭和6)年満州事変が起こり、愛国婦人会の活性化が課題となる。愛国婦人会は地方支部の下に分会を置き、大衆化に乗り出すとともに、政府の提案する自力更生運動や農村救済運動を支えるため、婦人報国運動などを活動に盛り込んでいく。そのため1932(昭和7)年6月11日には、目的も「本会は戦死並びに準戦死者の遺族及び廃兵を救護するを目的とす。前項主たる目的の外地方の状況に依り必要なる他の社会事業を為す事を得」と改正される。次に目的が変わるのは、1938(昭和13)年である。1937(昭和12)年に櫨溝橋事件が起こり、日中戦争に突入し、国民精神総動員運動が始まり、愛国婦人会は軍事扶助中央委員会の加盟団体となり、愛国婦人会の軍事後援活動の対象が正式に、戦死者遺族と傷痍軍人とその家族だけでなく、出征軍人とその留守家族に広げられた。1938(昭和13)年5月6日に改正された定款は、「本会は軍事後援を為すを目的とす。前項の外本会は婦人報国の実を挙ぐるに必要なる事項を行ふことを得」となっている。

本シリーズは、3冊で構成される予定である。第1巻は、愛国婦人会の創設から、目的が一般の救護にまで広げられる1917(大正6)年までを扱う。第二巻は、一般救護も行うようになる1917(大正6)年から、大衆化路線を取り、政府の推進する運動に呼応した1931(昭和6)年までの時期を扱う。第3巻は、婦人報国運動を展開する1931(昭和6)年から、解散されるまでの1942(昭和17)年までの時期である。

この第1巻は、愛国婦人会の創設から目的が一般の救護にまで広げられる1917(大正6)年までを扱う。愛国婦人会の主唱者奥村五百子という人物は、どのような人であったのだろうか。なぜ奥村五百子は貴族院議長などという有力な政治家を頼り、婦人団体を創設することができたのか。どのように愛国婦人会は全国規模の組織を築くことができたのか。また日露戦争後も組織を維持することができたのか。中上流婦人を集めたとされる愛国婦人会の会員とは、どのような人だったのか。どのくらいの数の人が会員となったのか。また幹部とはどのような人々であったのか。この時期に愛国婦人会が行った活動とは、実際にはどのようなものであったのか。以上のような観点から、軍人遺族や準戦死者とその家族を活動対象としていた時期の、愛国婦人会の創設と確立の過程を追ってみる。

目次
初めに
第1章 愛国婦人会の設立
   1-1 愛国婦人会の設立過程
   1-2 愛国婦人会主唱者 奥村五百子
   1-3 奥村五百子と政府高官たち
第2章 愛国婦人会の拡大と整備
   2-1 皇族の利用と協力
   2-2 行政の利用と協力
   2-3 奥村五百子らの地方遊説
   2-4 地方支部の創設
   2-5 そのほかの会勢拡大策
第3章 継続する愛国婦人会
   3-1 日露戦争後さらに拡大へ
   3-2 会合など
   3-3 愛国婦人会上層部の更迭劇
   3-4 地方支部の活動
第4章 愛国婦人会の会員
   4-1 会員数と会員の種類
   4-2 規則などと組織
   4-3 愛国婦人会の役職者
   4-4 褒章制
第5章 愛国婦人会の活動
   5-1 愛国婦人会の活動対象
   5-2 活動の種類
   5-3 軍事後援活動
      1: 生活扶助、生業扶助
      2: 慰問・奉仕・献納・送迎・寄贈金品・慰問袋・武運祈願など
   5-4 一般事業
      1: 児童保護事業
      2: 失業並びに経済保護事業
      3: 罹災救助
      4: 社会教化事業
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