「愛國」と言うとすぐに戦前の軍国主義に短絡させる風潮がある。メディアや教育によって、その
短絡は繰り返し戦後の日本人の精神に刷り込まれてきた。しかし元来、自らが生まれ育った
郷土を、国を、愛する心情は極めて自然なものである。日本の国土・自然に愛着を持ち、日本の歴
史・文化・伝統に敬意を持つ心は日本に生まれ育った全ての日本人にとって、自然に培われるもの
ではないだろうか。「愛國」は教えられることでも、ましてや強制されることでもない筈である。
句集の書名を「愛國」としたのは、この美しい語がごく自然に受け入れられ、使われることを切に
願ってのことである。
さて、俳句における季語は、「日本人の感覚のインデックス」(物理学者・詩人、寺田寅彦)と言わ
れている。それは、日本人の生活、季感、倫理観、美意識の凝縮した詩語であるとともにありとあ
らゆる日本人の感性の総覧でもあるという意味である。あらゆる地域の、あらゆる階層の、あらゆ
る職業の、つまりあらゆる日本人の感情と感覚が短い文言に集約されたものが季語なのである。季
語は日本の自然、日本の文化を端的に表徴する最も優れた「文化財」と言っても過言ではないであ
ろう。日本語を慈しみ、季語を愛する心は、国を愛する心と同じである。私がこの句集の書名を「愛
國」としたのは、そんな美しく健気なる季語たちを慈しみ、愛するが故なのである。
・・・・・「著者あとがき」より。
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