著者 | 編者 | 作品の分類 | ページ数 |
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杉田元宜 | 井口和基 | 物理学 | 144 |
書籍サイズ | 定価(税込) | ISBN |
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A5 | 2,200 | 978-4-86420-182-7 |
概要 |
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60年余の歳月を経て甦った幻の物理学書! 本書は我が国において戦前、戦中、戦後初期の理論物理学を代表した故・杉田元宜(すぎた・もとよし)博士の「過渡的現象の熱力学」の現代語訳である. この本は初版が昭和25(1950)年4月5日に岩波書店から刊行された. 当時のお金で200円. 杉田の時代は戦前戦中を経ているために, 昔の情報集めは非常に難しい.なぜなら, 我が国では太平洋戦争時における米軍の爆撃により, 東京,名古屋, 大阪などの数多くの主要都市が爆撃による火事で学校や図書館が消失し, その時に多くの文献もいっしょに消失したからである. したがって, 戦前の教科書の類は極めて限られ, 戦前の情報はほぼ手にはいらない. 実際, 本書を保有している大学図書館もわずかであった. 東では新潟大学図書館くらいしか保管していなかった. 私はドイツに住むユージン・スタリコフ(Jewgeni Starikow)博士と杉田元宜博士の過去の業績についてやり取りしていたのだが, その時, 杉田博士の著書「過渡的現象の熱力学」と「熱力学新講」の2冊ともに新潟大学図書館に存在することをお知らせしたところ, 彼が我々の共通の友人で同僚である新潟県に住む山田弘明博士に「過渡的現象の熱力学」を図書館から借りて中を見てもらえるように依頼していたようである. あとで山田博士から私も見せて頂いたのである. この本は太平洋戦争中に書かれ終戦直後に出版された本であるので, 文章が旧漢字で書かれているために, 現代人の我々にはかなり読みづらい. そこで, 内容の重要性からみるとぜひとも読むべきものであるが, 本が希少であることや文体などから現代語に訳す必要があると考えられる. そんなわけで,私はこの本を現代語に直して出版することにしたのである. その際, 読みやすさのために現代的な表現に合わせて若干の言い回しや単語や物理用語等の改変および英単語の添付などことわりなく変えたところがあるがご了承していただきたい. いざ本ができあがってみると, 私の個人的な再出版の話は霧散しかけてしまった. なぜなら杉田博士夫妻がご逝去されている今, 著作権の保持者であるご遺族がどこにおられるのか皆目見当がつかなかったからである. 私がインターネットで調べたところ, 杉田博士のお墓が多磨霊園にあることだけわかった. そこで私のブログに杉田博士の写真をご存知の方があったら知らせて欲しいと試しに出してみたところ, 埼玉県にある曹洞宗大谷山宝城寺の照井瑞子氏からたくさんの本(写真付き) や原著論文をお送りいただいたのである. その御礼の際に杉田博士のこの著作権保持者のことをお知らせしたところ, これまた大変親切にお寺まわりのネットワークや顧問弁護士の手を経てついに現存する最後のご親戚を見つけていただいたのである. それが現在青森県三沢市にお住まいの本田セツ様であった. この本田様から実は杉田博士夫妻にはご子息の長男がお一人おありだったのだが, 残念にも2012年8月にご逝去され, 杉田夫妻の直接のご遺族は完全にいなくなったことをお教えいただいたのである. また杉田博士の数枚の貴重なご家族写真もいただいた. さらには杉田元宜博士の奥様がカナダ出身の日系カナダ人の小山Grace栄(Grace Sakae Oyama)様であったこと, そのご家族やご親戚が現在カナダに多数存在することをお教えいただいたのである. そこで本書を再出版してもよろしいかということをこの本田さんに確認したところ,まったく問題はないという了解をいただけたのである. こうして出版できる見込みが出来たのである. (編者の序文より) |
目次 |
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第1章 序論 1.1 熱現象とはどんな特色を持っているであろうか? 1.2 熱の形で生じるエネルギーの横流れはどうして起こるか? 1.3 本書ではどういう問題を扱おうとしているのか? 1.4 熱力学第二法則は分子統計論的にはどういうことを主張しているか? 第2章 広義の準静的変化と仮想熱源 2.1 不可逆変化の熱力学 2.2 不可逆現象の熱力学の理論構成上の難点 2.3 難点克服の方法 2.4 広義の準静的変化 2.5 仮想熱源 2.6 気体の流動 2.7 不可逆サイクル 2.8 熱電気におけるKelvinの関係式 第3章 拡散現象 3.1 Langevin(ランジュバン) の式 3.2 混合と自由エネルギー 3.3 分配数の取り方 3.4 浸透圧について 第4章 準安定現象の熱力学 4.1 準安定の状態 4.2 Frenkelの理論 4.3 過飽和蒸気 4.4 Cluster 成長の速度論 4.5 速度論の熱力学 4.6 不均質系への熱力学の応用 4.7 質量作用の法則と動的平衡 4.8 独立成分の定義 4.9 化学力(μ-field) について 4.10 | G | 極大の原理 4.11 速度論的paradox と場の逆転 4.12 協力現象とμ-field 第5章 生物体の熱力学 5.1 序論 5.2 生物現象に対する物理学および化学の応用 5.3 生命の起源について 5.4 生命発生の分子統計論 5.5 生命の起源の熱力学的速度論 5.6 混合エントロピーについて 5.7 生物の進化発展 5.8 遺伝と進化 5.9 機械論的な見方について 5.10 進化と協力現象(Cooperative phenomena) 5.11 動的平衡論 5.12 生物体の熱力学 5.13 緩和現象と動的平衡 5.14 結論 |