著者 | 翻訳者 | 作品の分類 | ページ数 |
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エドワード・ネルソン | 井口和基 | 物理学 | 189 |
書籍サイズ | 定価(税込) | ISBN |
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A5 | 2,200 | 978-4-86420-169-8 |
概要 |
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本書はアメリカの数学者故エドワード・ネルソン(Edward Nelson)の『Dynamical Theories of Brownian Motion』の日本語訳である。ネルソンはユニークかつ名文家として知られた。純粋数学の難しいことをすっきりとした名文で記述し、単純明快平明に語るその文章は、およそ数学者たるものこのようにあれと言われ、同業者に多くの読者やファンを持った。本書はそんなネルソンの代表作の1つである。 彼は1964年『Feynman integrals and the Schrödinger equation』、および1966年『Derivation of the Schrödinger Equation from Newtonian Mechanics』において数学の現代的な確率論を数理物理学に応用する研究を行った。これらの論文は、1個の量子である1電子運動を古典力学の形式を用いてランダムな確率場の揺らぎの中の運動とみなすことから1電子の量子力学を構築可能であることを証明した画期的論文である。すぐにネルソンはこれらの研究に関する講義を行い、それを一冊の本にしたためた。それが本書である。 それ以来、この手法は「ネルソンの確率量子化(Stochastic Quantization)の方法」と呼ばれるようになった。この結果、量子力学には、ハイゼンベルグ(Heisenberg)流、シュレーディンガー(Schrödinger)流、そしてネルソン流の3種類の等価な量子力学構成法があり得ることが判明した。その後10年ほどの間ネルソンの方法は知る人ぞ知る数理物理学における、いくぶん異端的な量子力学という扱いを受けていた。しかしながら、1970年代後半になって我が国の保江邦夫がこのネルソンの確率量子化の手法の重要性に気づき、本格的に研究を開始した。保江はそれを用いて「散逸のあるシュレーディンガー方程式」および熱・統計力学の金字塔の1つであるオンサーガーの線形散逸理論の数学的基礎を与える「オンサーガー-マクラップ公式」を導いた。その後、さらにシュレーディンガーの古典的研究において、特にE.シュレーディンガー自身の手による「シュレーディンガー方程式」導出のそのものにネルソン流の確率量子化の発想やポントリャーギンの最適制御理論の萌芽を見出した。そして保江は我が国の偉大な数学者の故伊藤清による「確率微分方程式」のレベルから徹底的に考察し、ついに現代確率論における「保江方程式」の発見に至り、その後の「確率変分学」という分野の基礎を作った。そればかりか、保江の最初の弟子であるザンブリーニ(J.C.Zambrini)によって、シュレーディンガーに端を発する「過去と未来との間の時間対称性をもつ確率過程」-「ベルンシュタイン過程」-を量子力学の再構成に応用し大きな一歩を記すことになった。これらの発見は、保江邦夫「量子力学と最適制御理論」(海鳴社, 2007 年)に詳しい。 このネルソン-保江-ザンブリーニの方法は、熱・統計力学におけるオンサーガー-マクラップ(Onsager–Machlup)理論の『非線形』への一般化および最適制御理論の分野自体にも役立つ可能性があり、今後の発展を促し得る秘めたる可能性を持つように見える。そんなわけで、すでにネルソンの最初の出版から半世紀の時を経ているが、さらなる発展を期待して、ここにあえてそれを日本語訳本として出版することにした。私の稚拙な日本訳にてネルソンの名文を汚すことになるかもしれないが、読者諸氏のご理解を願いたい。 (「訳者まえがき」より一部抜粋・編集) |
目次 |
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訳者まえがき 第1章 お詫び 第2章 ロベルト・ブラウン 第3章 アインシュタイン前時代 第4章 アルベルト・アインシュタイン 第5章 ウィーナー過程の導出 第6章 ガウス過程 第7章 ウィーナー積分 第8章 確率微分方程式の類 第9章 ブラウン運動のオルンスタイン-ウーレンベックの理論 第10章 力場中のブラウン運動 第11章 確率運動の運動学 第12章 確率運動の動力学 第13章 マルコフ運動の運動学 第14章 量子力学についての注意事項 第15章 エーテル中のブラウン運動 第16章 量子力学との比較 訳者あとがき |