原典でたどる電磁気学史



書評(物理教育・第66巻第3号、2018年9月)
「原典でたどる電磁気学史」図書紹介

西条敏美(元徳島県公立高校教員)
いわゆる原典科学史の一種になるが、各章の前段で電磁気学史の概説を行い、後段で該当する抄訳原典を提示するという構成となっている。全11章から成り、23の抄訳原典が収められている。概説より原典の頁数がずっと多く、「電磁気学史の原典資料集」という感がある。

取り上げられた原典は、その著者名で列挙すれば、ギルバート、ゲーリケ、グレイ、デュ・フェイ、フランクリン、ノレ、クーロン、ガルヴァーニ、ボルタ、エールステッド、アンペール、ビオとサバール、アラゴー、オーム、ファラデー、ジュール、レンツ、マクスウェル、ヘルツ、ヒットルフ、J.J.トムソン、スチュアートとトルーマンとお馴染みの人物の名前が並ぶ。前史ともいえるクーロン以前のギルバートからノレにいたる6原典にも目配りされている。

著者は元中学校の教員。高校生の頃より物理法則がどのようにして創られたのか疑問を抱くようになり、大学時代には量子論の発展過程に興味を持ち、参考資料を読んだという。教員になってからは、科学法則の形成過程を取り入れた単元構成に取り組んでこられた。いわゆる科学史の教材化を進めてこられた人である。

はしがきによると、定年退職後はマクスウェルの電磁方程式の形成過程を調べるうちに、このマクスウェルの原典やその他の原典の抄訳を加えて出版できれば、高校生、大学生、さらに理科教員の方に役立つものができると考えたという。大野陽朗監修の『近代科学の源流.物理学篇』(北大図書刊行会)やマギーのソースブック(W.F.Magie : A Source Book in Physics, McGraw-Hill)の先行原典資料集の電磁気学の部分を参考にし、また多くは原典そのものにも当たって訳文を作られた。23の原典抄訳のうち10編は初訳となっている。

ただ実際に読んでみると、「昔の論文は、今のようには分からない状況で、当時の手持ちの科学的知識や道具を使いながら実験を行ったわけで、理解しにくい部分もあります」と述べておられる通り、読みづらいところがあるのは確かである。このために著者は、訳文の途中に[ ]を設け独自の注釈を挿入したり、訳文の後にイメージ図やソースブックの編著者の補注を付け加えたりしているが、その数はきわめて少ない。それぞれの原典の末尾に訳注欄を設けて、より多くの注釈をくわえてほしかった。また巻末には、年表、主な参考資料、先行邦訳リストが付いているが、もう一つ、索引(事項索引、人名索引)が付いているとよかった。先行邦訳リストは、本書に収められた23の原典の先行邦訳の有無が記載されているが、これとは別に本書に収められなかった原典の邦訳リストも付いていると、さらに利用価値が高まっただろう。以上を差し引いても、電磁気学の基本法則に関する原典がコンパクトに日本語で読めるようになったことの意義は大きい。「理科教員の方には、本書などで科学の歴史を学び、授業に生かしてほしいのです」という著者の思いに満ちた一冊といえる。

著者には他に、『理科教材研究のための科学史』(私家版、1999)や『オームの論文でたどる電圧概念の形成過程』(大学教育出版、2007)などの著作がある。

最後に目次を掲げておく。この目次のもとに概説と抄訳原典の2つから構成されている。

第1章 初期の磁気研究
第2章 初期の静電気研究
第3章 電磁気学の新しい展開(18世紀)
第4章 静電気力・磁気力の遠隔作用論とクーロンの法則
第5章 定常電流の獲得(電池の発明)
第6章 電流の磁気作用の発見
第7章 電流に対する諸法則の発見
第8章 ファラデーによる電磁誘導の発見と近接作用論
第9章 マクスウェルの電磁理論と電磁波の存在確認
第10章 電気の本性(電子)の発見
第11章 荷電粒子(電子)による磁性と電気伝導の説明



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