きらる10

( one day )





『不思議な場所』 そらの珊瑚/作

胸が痛い
嬉しすぎて痛くなる
感動しすぎて痛くなる

幾本もの
せつなさの矢が
真ん中にささると
血ではなくて
透明で
しょっぱい
水を出す
海みたいな場所



『一日』 草野春心/作

雨がやむのを待って
あなたの一日がすぎていった
そのなかであなたは上衣の釦をつけ直し
ノートの最後の頁を何とか使い終えた
風が樹々を揺らし網戸を抜け
強張ったあなたの髪を湿らせた

あなたはその日
私を思い出さなかった
それよりはソファに座り犬の頭を撫でて
しけったビスケットを齧っているほうが楽だったから
あなたは思い出さなかった その日
河原に散らばった幾つもの小石に紛れ
雨がやむのを待っていた私を



『陽気さ』 はるな/作

よごれて
あなたは笑っていた
ちかちかする電灯をつけて
陽気な詩を読んでいた

「星がながれるころ」、
歌いだしたとき
詩だと思っていた

(    )を忘れたい
ほとんど白いくらい青くなって
あなたが叫んでいたのに
詩だと思っていた

よごれて
あなたは笑っていた
それも全部
詩だと思っていた
ちかちかする電灯を消して
時間通りに帰っていく
あなたは
詩だと思っていた


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