『不思議な場所』 そらの珊瑚/作 胸が痛い 嬉しすぎて痛くなる 感動しすぎて痛くなる 幾本もの せつなさの矢が 真ん中にささると 血ではなくて 透明で しょっぱい 水を出す 海みたいな場所 『一日』 草野春心/作 雨がやむのを待って あなたの一日がすぎていった そのなかであなたは上衣の釦をつけ直し ノートの最後の頁を何とか使い終えた 風が樹々を揺らし網戸を抜け 強張ったあなたの髪を湿らせた あなたはその日 私を思い出さなかった それよりはソファに座り犬の頭を撫でて しけったビスケットを齧っているほうが楽だったから あなたは思い出さなかった その日 河原に散らばった幾つもの小石に紛れ 雨がやむのを待っていた私を 『陽気さ』 はるな/作 よごれて あなたは笑っていた ちかちかする電灯をつけて 陽気な詩を読んでいた 「星がながれるころ」、 歌いだしたとき 詩だと思っていた ( )を忘れたい ほとんど白いくらい青くなって あなたが叫んでいたのに 詩だと思っていた よごれて あなたは笑っていた それも全部 詩だと思っていた ちかちかする電灯を消して 時間通りに帰っていく あなたは 詩だと思っていた |