「聖者」 高村美香 始発の電車を待つ間、二人は 枯葉の匂いのする貴方のコートに包まって消えてゆく星を数えた 隣に居る貴方より綺麗な物を私はまだ見たことが無いけれど 静かに頬を伝う涙の先には一体なにがあるのでしょう 私との距離を律儀に守る聖者のような人 教えて欲しい 朝が来る前に私たちは何度生まれ変わるのかを 近くに居て決して触れる事の出来ない その心がこんなにも愛しいその訳を 風が起き 雲が流れ 鳥が飛び立ち、新しい生活が二人を引き離す また逢える約束もしないまま乗り込む電車の扉が閉まる 出ない答えに引き裂かれるようにベルが鳴る ホームのあちらこちらに落ちている羽根を見ながら 私たちの目指す空がせめて同じである事を願う。 「天花粉」 泡沫恋歌 子どもの頃 風呂上がりには 首 脇の下 おでこ に 天花粉を いっぱい はたいた 真っ白に咲いた私 と 夏の夕暮れ |